夢幻ループ

 目を覚ましたら、そこは真っ白な空間だった。
 明らかに僕の部屋ではないし、かといって病室とも違う。僕が今まで寝ていたと思われるベッド、の他に何もない。無限に続くような白い白い空間。
 白というのは清潔なイメージがあるけれど、こんなに白いとなんだか眩しくて落ち着かなくなるね。僕のような異物が存在しちゃいけないような気もするんだ。
 ここがどこだかはわからないけれど、これが夢だということだけははっきりとわかる。どうやら明晰夢ってやつだろう。僕は疲れてるし明日も早いんだ、夢なんか見てる場合じゃないんだよ。ってことで、寝た。二度寝した。
 さすがに三度寝はないだろうと思っていたのに、目が覚めるとまた夢の中っぽかった。でも、今度は真っ白な空間じゃなかった。
 カラフルといえばカラフルなんだけど、なんだろう、原色のみで構成されていて、さっきよりも落ち着かない部屋だった。美術館で見たマティスの絵画もこんな感じだったなあ、と部屋を見渡すと、マティスの絵がそのまんま飾られていた。なんだ、この部屋の主はマティスのファンか。でもこの夢を見ているのは僕だから、つまり僕はマティスのファンだったのか。わはは。って、そんなことはない、僕はそもそも抽象画なんか好まない。
 部屋全体のビビッドカラーが目に痛い。しかもカーテンが赤色って、趣味が最悪じゃないか。赤には人を興奮させる作用があるんだ。闘牛だって赤に反応するよね。こんな部屋で落ち着いて眠れるものか! と、憤慨しながら僕はカーテンを開けた。
 すると、窓の外には子どもの落書きみたいな謎の生物が何匹も、ぷかぷかと宙に漂っていた。なんだあれ。自分の心象風景がちっともさっぱり理解できないぞ。でもほんの少し理解したくもなったので、僕はあの生物に触れようと窓を開けようとする。が、開かない。
 どれだけ力を入れても窓は開かない。どうせ夢だし構わないかと、そこらにある花瓶やら食器やら投げつけてみてもびくともせず。外に出ようとドアを探すも、扉らしきものは見当たらない。僕は完全に閉じ込められてしまったようだ。
 もう疲れた、今度こそ寝よう。こんな気の狂った色彩の部屋でも、目を閉じてしまえばそこは暗闇さ。
 そして三度目が覚めると、今度はまた白い部屋だった。でも最初に見ただだっ広い空間とは違う。蛍光灯があって、点滴の管があって、どうやらその管は僕の腕に繋がっている。
「気が付きましたか?」
 看護師らしい女性に声をかけられる。
「気が付いたのか付いてないのか、よくわかりません。ここは現実なんですか?」
「はい、そうですよ」
 そうか。ここは現実なのか。でも知らない場所だ。なんで自分がここにいるのか、記憶を探ってもどうしても思い出せなかった。